ベルギーのクリスマス菓子「クニュ」
この菓子が気になり始めたのは、幼子イエスの形をした小さな砂糖菓子をたまたま持っていたことからです。
ただ可愛らしくて買ってしまった砂糖菓子ですが、たくさん袋入りで売られていたため
何年もうちの冷蔵庫で眠っていて、クリスマスのケーキの飾りに使うくらいでした。
フランスの伝統菓子の本を読んでいた時に「cougnousクニュまたはコニュ」というフランドル地方の菓子の飾りとして
この砂糖菓子のことが書かれているのを読んで、初めてこの砂糖菓子が何なのかわかったのです。
クニュはフランスのフランドル地方とベルギーのワロン語(フランス語)地域で作られている伝統菓子です。
味はレシピを見るとクグロフなどに近い、よくあるレーズン入りブリオッシュ生地です。
この菓子にはとっても興味深い背景があり、まだまだわからないことだらけですが、
少しづつ更新していきたいと思いますので気長にお付き合いください。
ベルギーではブッシュ・ド・ノエルにも同じ幼子の砂糖菓子をのせるそうですが
これはどうもフランドルならではの習慣による影響ではないかと思うのです。
民俗学の資料でも指摘されているように、この砂糖人形はその昔パタコンとかロンと呼ばれる
彩色されたレリーフ状の円盤型の飾りがいつのまにか簡略化された代替品のようです。
博物館のパタコンのような大きな陶板をみつけたので、試しに自分でつくってみたクニュはこちらです。
パタコンとはフランドルのスペイン統治時代のスペイン銀貨に対する呼び名だそうです。
ロンは丸いという意味のワロン語です。このように大きなものはすでに博物館でしか出会えないようですが、
まだ小さいものが作られているという情報もあり、ぜひ取材に行ってみたいものです。
舟田詠子さんの「誰も知らないクリスマス」の著書においては、
このパタコンとパタコンで飾られたパン菓子についてのページで、
主にオランダや北フランドルでのこのパン菓子(オランダ語でヴォラールトvollaard)についての
驚くような興味深い内容の研究が語られています。
ベルギー人に聞いても、フラマン語(オランダ語)地域の人はクニュという名の菓子を知らないようです。
ワロン語地域でもcougnousの他、cougnole、coquilleなどと地域により呼び名が違っていますが、
形はだいたい楕円の両端がくびれて、大きいふくらみの両側にに小さいふくらみがついたような形です。
中世にも遡り、ブリューゲルなどの画家たちの絵のなかにも描かれている菓子と同じ流れのようです。
昔は楕円というよりひし形に近く、もう少し角ばっていたり両端が割れていたりしています。
フランドルはスペインの統治時代を経てカトリック圏であり、
それゆえ、本来土着的な呪術的な意味もあったのではと思われる菓子が、幼子イエスをのせたり
キリストのおくるみ姿の菓子であるとして、キリスト誕生を祝う菓子にすり替えられたのではないかと思うのです。
よくあるキリスト教が異教を取り込むしたたかさがここでも発揮されているのでは?
そして私はこの菓子の名前に着目しました。
いくつかの呼び名のうちのcoquilleは貝のことですが、女性器をも意味しますし、
さらに推測ですが、本来フランス語にないcougnousという言葉は、
スペイン語で女性器を意味するcono(nの上に〜が付きます)と発音がほぼ同じですので
この縁起菓子の本来の姿が透けて見えてくるような気がしています。
そして、パタコンという言葉と同時にクニュもスペイン語からきてるのでは?と想像してみたり・・・。
また余談になりますが、各地域のクニュの中には十字架を置いたり、リボンをしたり、
生地に切れ目を入れるところもあるらしく、切れ目の入れかたによっては、
きっとプロバンスのナベットのような形になるのでは思いました。
そしてナベットも女性器をイメージしてるとも言われているのです。
2月2日の(産後の)「聖母お潔めの日」にはあまりにしっくりくる菓子ではありますよね。

これはリボンをつけたクニュというよりヴォラールト?形も新年のヒトガタパンに近くなっているクニュ(フラマン風)。
下の写真は一番上のクニュをつくってくださった、森田氏のオリジナルのパン生地製ヒトガタをのせた写真です。
とっても可愛い白い坊やがヒトガタパンにも通じるようで、感激してしまいました。

資料によってはクニュが「1月」の語源ともなったヤヌスを表し、
去年と今年を表す2つの頭を持つ形だともあります。本来は迎える年が幸運と豊穣の年であることを
願う気持ちを込めて作られてきた菓子、またはパンなのではないかと思います。
ブリオッシュという生地はハレの日(祭りやお祝い。平常時では日曜日)の食べ物です。
パンでもなく菓子でもないような特別な存在。マリー・アントワネットが「パンがないのなら
菓子を食べればいい」と言ったその菓子と訳されているのはブリオッシュです。
古くからの祭につきものの縁起菓子はほどんどがブリオシュ生地、と言ってもいいくらいあるのです。
このページをつくった頃には、クニュの情報もあまりなかったのですが、
les gateaux regionaux という友人の素敵なブログで、クニュををはじめ、いろいろなヒトガタパンをご覧になれます。