マダレナ madalena(西) madelaine(仏)

マドレーヌというお菓子は、日本人にもとても馴染みのあるお菓子ですね。
私が小さい頃、母が買ったばかりのガスオーブンで焼いてくれたのもマドレーヌ。
マドレーヌはその味も呼び名も優しく、懐かしい気持ちになるのは、プルーストだけではないようです。

写真のマドレーヌは、アトリエココを主催する友人の作です。
彼女とはもう20年来のおつきあい。その出会いは、私がバルセロナでの1日だけの和菓子展をなんとか終えて、
開放された気分でパリに着いたその日。
その頃マカロンがおいしいと地元で評判の「カレット」の店先、隣り合ったテーブルでした。
現在、とても地に足のついたフランス菓子を教え、マドレーヌは自分にとって特別なお菓子という友人によると、
マドレーヌは日持ちもよく、旅の間にも持ち歩いたお菓子だそうです。

ビスコチョのページでも少し触れましたが、スペインには
マドレーヌと同じく聖マグダラのマリアの名前がついた「マダレナ」というお菓子があります。
南蛮菓子への興味があった私は、何度かのスペインに滞在の折には、現地の菓子を注意深く見ていたつもりでしたが、
先にフランス菓子に馴染んでしまった私は、うかつにもフランスと同じものがあるのね、と軽く流していました。
ですから、写真に撮るほどもない、日本にもあるようなありふれた菓子だと思っていました。

ところが、2年前ビスコチョのページを作ろうと、ぴっぱり出した資料「Conducho de Navida」に再度目を通してビックリ。
フィリペ2世の料理人が書き残した書物は、カステラのルーツをさぐる時の資料としても注目されていますが、
1585年に書かれた「Conducho de Navida」にはクリスマスの王様の宴会に出されたメニューと製法、
そして、この年フィリペ2世に謁見した天正少年使節の4人の少年たちのことも書かれています。
彼らの名前、どの国(藩)の王の使いであるか、さらに、彼らが箸を使うこと、ローマへ向けて乗船した日にちまで書かれています。
そして、これらのメニューの中に「Madalenaマダレナ」が含まれ、配合、手順を見ると、マドレーヌ!? 目から鱗でした。


これはまだスペインを行ったり来たりしていた頃、10年以上前にある方からいただいたコピー。
「マダレナについての覚書」の部分です。詳しくは今後別記します。配合も興味深い点です。

天正少年使節の少年たちが、実際にマダレナを食べたかどうかはわかりません。
しかし、このときが日本人とマドレーヌの最初の出会いだったかもしれないと考えると胸が躍ります。
王様の饗宴に出されるのですから、この時代の格式ある菓子だったわけです。
形は不明ですが、「小さなお菓子」と記述があります。
この時代大ぶりで切り分けるタイプが多かったと思われるので、1つをそのまま手に取れる愛らしいお菓子は、
まだ珍しかったのではないでしょうか?
おそらくビスコチョと同じように、紙のケースに流して焼いていたのではないかと思われます。

宮廷菓子であったものが、一般に広まるまでには、砂糖や小麦、卵を潤沢に使え、窯を持っていた修道院で焼かれていたと考えられます。
そして、ビスコチョやチョコラーテのように、スペインからフランスへ入り、さらに洗練されたのではないでしょうか?
日持ちがよく旅の間も持ち歩いたとされるマドレーヌ、その形がほたて貝だということも
マドレーヌの道がサンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼の道と重なってくるように思います。

巡礼の道をともに歩み、命をつないだマダレナ。
フランス人は巡礼から無事帰った時、その思い出として、聖ヤコブの日に、サンチャゴ(聖ヤコブ)のしるしである、
帆立貝の形に託してマドレーヌを焼いたのではないか?と想像します。もちろん、帆立貝の形だけでなかったでしょうが。
16世紀のスペイン宮廷で好まれたマダレナが、18世紀フランス各地でつくられるようになったマドレーヌと
網の目のように伸びた聖ヤコブの道でつながっているように思えてなりません。

古い菓子ほど信仰とは切り離せません。
生きていくことが厳しい時代に、菓子は特別な時、敬虔な思いとともにいただくものであったわけです。
だからこそ、聖マグダラのマリアの名を戴いた、古くから変わらぬ菓子が今も愛されているのだと思います。
今年2010年は、聖ヤコブの日7月25日が日曜に当たる「Xacobeoシャコベオ」ヤコブ聖年です。


アトリエココ傘下のNPO法人「おやつくらぶ」会報誌17号にも、「16世紀のマドレーヌ」という小さな記事を書きました。
バニラや発酵バターを効かせ、しっかり焼いた今風のフランス菓子のマドレーヌも好きですが、アトリエココのマドレーヌの基本に忠実な、
やさしい味わいは、不思議とマダレナを思わせ、私にとっても感慨深い味わいです。

一番上の写真のバックに写っているのは、2007年の大阪の国立民族学博物館の展示「聖地★巡礼 自分探しの旅へ」の図録表紙(部分)です。


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2010.1