クリスマスのパピヨット

フランスのクリスマスのお菓子「パピヨット・ド・ノエル」です。
私はこのキャンディ包みのチョコレートを、辻占菓子関連の菓子資料として
現物を見てみたいと思い、友人に相談してみたところ、あっという間に手元に届けられたのでした。

なぜ、辻占の資料として必要だったのかというと、
明治11年に両国風月堂(風という字が実際と違います)で売り出された「新年辻占パピヨ」があったからです。
「新年辻占パピヨ」について知ったのは、辻占研究家の青木元さんの研究紀要の中でした。
そこには当時の広告のコピーが載せられていたのですが、イラスト入りの広告でした。
その絵を見て、カタルーニャの新年の巻き煎餅「ネウレス」で遊ぶ子供が描かれた木版を思いだしました。
バルセロナでは、現在もクリスマスが近くなると出回っています。

この「辻占パピヨ」の広告については、『恋乃辻占堂日記』というブログにも詳しく書かれています。
その宣伝文句は「此品は西洋各国にて新年宴会の折戯むれに供するものにて至極面白きものなり」というもの。
カタルーニャのネウレスに「言葉」がかかれた紙が入っていた可能性については、今後の課題ですが、
日本では落語の『辰巳の辻占』に辻占入りの巻煎餅が登場するなど、庶民にとっては馴染み深いお菓子でした。

現在、東京風月堂に「パピヨット」というお菓子があります。
ちょっと懐かしい洋菓子でしょうか?
私はこの巻煎餅の「パピヨット」の前に、「辻占パピヨ」があり、辻占入りの巻煎餅だったとわかったことで、
何年もの間、「パピヨット」に関しては、それ以上の疑問をもたずにいました。

ところが、ある日ハッと思い当たりました。「パピヨット」はフランスでは「巻煎餅」ではないことに。
両端をひねって、ちょうちょのような形に包んだ形状をさしている言葉です。
オーブン料理などにもパピヨットという紙包みはよく使われます。
巻煎餅は通常「シガール」と呼ばれます。巻たばこの意味ですよね。
ですから、「パピヨット」という言葉と「巻煎餅」が違和感なくつながるのは、
明治の頃からの風月堂の菓子に慣れ親しんだ日本人にのみ通じる話なのです。その始まりが「辻占パピヨ」らしい…。

これは大変!軽い食感が蝶(パピヨン)のようだからパピヨット?とひとり勝手に思い込んでいたわけで、
生半可なフランス語とお菓子と辻占の知識がすべて裏目に出ていたわけです。
はたして、「パピヨット」は明治11年の風月堂の広告の通り、新年の余興的な菓子として存在していました。
これに気がつくまで、何年かかったか!
カタルーニャのネウレスや、オランダのオリボーレンなどばかりに気をとられていましたー。

フランスの菓子に詳しい友人にたずねると、早速「パピヨット」をフランスより入手してくださり、
さらに、パリの A L'ETOILE D'OR にお勤めの方に連絡をとってくださり、
パリのお店で使われているパピヨット用の包み紙↓まで、辻占資料としてお譲りいただくことができました。
友人のおかげで急展開です。お菓子のことで、どんどんつながりができ、お互い興味が深まります。感謝。


未使用の包み紙のセットに感激。小噺のようなものや、教訓的なのも、いろいろあるようです。
包まれているほうは、爆竹のない「パピヨット」です。おかげで日本にやって来れたのです。


フランスの「パピヨット」は、18世紀末のリヨンの砂糖菓子屋さんが発祥とされる伝説があるようです。
言葉の紙は、お菓子屋の店員が、恋する美しい女性への思いを綴った紙を、お菓子と共に渡そうとしたことに
始まるようですが、その店員は解雇され、アイディアだけが、店主によって使われることとなったようで…。
また、その店主の名前がパピヨット氏だったとか! ちょっと話がつくられすぎの感はいなめません。

この「パピヨット」は、言葉の紙とクリスマス(新しい年を迎える時期)のお菓子であることが興味深いのですが、
もうひとつ、小さな爆竹(A L'Etoile D'orのブログで見られます)が仕込まれているのがミソです。
今回お譲りいただいた包み紙には、火薬が税関を通らないと思われるためか、入っていませんので、
実際試してみれなくて残念なのですが、もうひとつ現地へ行かないと楽しめない類似品に、
イギリスのクリスマス・クラッカーがあります。



クリスマス・クラッカーに必ず入っているという「言葉が書かれた紙」と紙の王冠に興味をひかれています。
写真はクリスマス・クラッカー風のパッケージに紅茶が入った商品でしたが、ツリーの飾りをつくる紙が入っており、
その紙には小さな王冠も印刷され、切り抜いてつくるようになっています。
ここには、辻占的な言葉の紙もさることながら、「王様のケーキ」の王冠が迷い込んでいるかのようです。

イギリスも「十二夜ケーキ」があります。エピファニーの日(十二夜)に食べるケーキです。
指貫や、コインなど、それぞれの意味するものがケーキに仕込まれていて、各自の一切れに何が入っていたかで占います。
中世イギリス宮廷にも、フランスでいう「王様のケーキ」があって、豆の王様を選び、どんちゃん騒ぎをしたようです。
その祝宴は道化がとりしきりました。言葉(詩・唄)も重要だったことでしょう。マザーグースの国ですものね。
ニューオリンズの王様のケーキに陶器の人形の道化が入っていたのも、意味のあることと思いました。

爆竹の破裂音は、新年を迎えるに当たり、魔を除ける民俗として、中国などに特徴的にみられます。
中国は新年の餃子にお金を入れておいたりしますね。

そんな縁起ものがいろいろ詰まった「クリスマス・クラッカー」は、ただのパーティー用品ではなく、とてもユニークな存在。
キャンディー包みの両端を引っ張ると、パン!と音がする仕掛け。「パピヨット」と同じです。



送っていただいた「パピヨット」の言葉はなぞなぞでした。その中のひとつをご紹介します。
「ガレット(デ・ロワ)の中に隠すものでもあり、カカオの実でもある言葉は?」
答えはページの一番下にあります。

辻占について詳しくは『恋乃辻占堂日記』で。
お世話になった友人のブログ『les gateaux regionaux』
パリのMayumiさんのブログ『A L'Etoile D'or』

参考:『イギリスのお菓子』 北野佐久子著 1989 CBS・ソニー出版
『中世の饗宴―ヨーロッパ中世と食の文化史』 マドレーヌ・P. コズマン著 1986 原書房


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2010.12  答えはfeve(フェーヴ)